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札幌地方裁判所 昭和59年(わ)211号 判決 1984年7月10日

裁判所書記官

伊藤賢也

本店の所在地

北海道小樽市相生町八番一三号

法人の名称

株式会社ショクセン

代表者の住居

北海道小樽市相生町八番一三号

代表者の氏名

鈴木清蔵

本籍

北海道小樽市相生町一一五番地

住居

北海道小樽市相生町八番一三号

会社役員

鈴木清蔵

明治四〇年二月二八日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官大久保博通及び弁護人田中正人各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社ショクセンを罰金八〇〇万円に、被告人鈴木清蔵を懲役一〇月に処する。

被告人鈴木清蔵に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ショクセンは、北海道小樽市相生町八番一三号に本店を置き、食用染料等の食品添加物及び食品加工資材の製造・販売を主たる目的として設立された資本金八〇〇万円の会社であり、被告人鈴木清蔵は、同会社の代表取締役として業務全般を統括しているものであるが、法人税を免れようと企て、架空仕入れ、売上除外・繰延などの不正な方法によってその所得を秘匿した上

第一  昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度の実際総所得金額が五、〇三四万五一四円であり、これに対する法人税額が一、八八八万九、二〇〇円であるにもかかわらず、同年五月一五日同市富岡一丁目一六番一号所在の小樽税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、六八八万二、五九九円であり、これに対する法人税額は九五一万一、九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額九三七万七、三〇〇円を免れ

第二  同年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度の実際総所得金額が七、五七六万三、三二九円であり、これに対する法人税が三、〇二五万四、八〇〇円であるにもかかわらず、同年五月一八日前記小樽税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、八七八万六、〇八一円であり、これに対する法人税額は一、〇五三万二、八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一、九七二万二、〇〇〇円を免れ

第三  同年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度の実際総所得金額が四、五四二万二、九三〇円でありこれに対する法人税額が一、七五九万九、三〇〇円であるにもかかわらず、同年五月一七日前記小樽税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、四六五万六、四〇八円であり、これに対する法人税額は八八八万四、七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額八七一万四、六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告会社代表者兼被告人鈴木清蔵の当公判廷における供述

一  被告人鈴木清蔵の検察官に対する供述調書

一  被告人鈴木清蔵の大蔵事務官に対する質問てん末書(六通)

一  被告人鈴木清蔵作成の上申書(二通)

一  被告人鈴木清蔵、鈴木則廣、長浜恭弘、鈴木英司共同作成の上申書

一  被告人鈴木清蔵、長浜恭弘共同作成の上申書

一  鈴木則廣(二通)、長浜恭弘(三通)、鈴木英司及び伊藤博の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料」と題する書面

一  大蔵事務官作成の「売上調査書」、「仕入調査書」、「期末商品棚卸高調査書」、「公租公課調査書」、「消耗品費調査書」、「雑収入金調査書」、「受取利息調査書」、「有価証券売却益調査書」、「有価証券売却損調査書」、「価格変動準備金繰入調査書」、「未納事業税調査書」、「現金調査書」、「普通預金調査書」「定期預金調査書」、「有価証券調査書」、「仮払金調査書」、「未収金調査書」、「貸付金調査書」、「未払金調査書」、「受取利息(認定利息)調査書(その他所得)」、「給料調査書(その他所得)」、「仕入調査書(その他所得)」、「修繕費調査書(その他所得)」、「車両調査書(その他所得)」、「仮受金調査書(その他所得)」、「身許保証預り金調査書(その他所得)」、「未払金調査書(その他所得)」、「繰越金調査書(その他所得)」と各題する書面

一  押収してある法人税決議書綴一綴(昭和五九年押第一四三号の61)

判示冒頭の事実について

一  札幌法務局小樽支局登記官作成の登記簿謄本

判示第一ないし第三の事実について

一  大蔵事務官作成の昭和五八年一二月一二日付調査事績報告書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までのもの)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までのもの)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までのもの)

(法令の適用)

被告人鈴木清蔵の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(判示第一の所為については、刑法六条、一〇条により昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。そして同被告人の判示各所為は、同被告人が被告人株式会社ショクセンの代表者として被告会社の業務に関して犯したものであるから法人税法一六四条一項により被告会社に対し同法一五九条一項(前同)所定の罰金刑を科することとし、判示各罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金八〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、起訴された三年分のほ脱税額が三、七〇〇万円余りと多額に及び、ほ脱率も平均五六パーセント余りと決して低いものではないなど悪質な脱税事犯であるところ、被告人鈴木は、みずから主導的立場に立ってこれを敢行し、その態様も架空会社の印鑑、請求書・領収書用紙を作成し、さらに同会社名義の預金口座を開設するなどしたうえ、同会社との間の仕入その他の取引を仮装するなど極めて巧妙なものであって、同被告人の刑事責任は相当重いものといわなければならない。しかしながら、同被告人が本件脱税に及ぶについては、自分の子に少しでも多くの財産を残したいとの利己的な動機も否定できないとはいえ、同時に、被告会社は、構造的不況下にある水産加工業界を主要な取引先としていたことから、被告会社自身も同業界の不況のあおりを受けて業績低下、経営悪下に転ずる危険に常にさらされていたため、同会社の経営状態が良好な時期に可能な限り多くの利益を内部蓄積することによってその資金面における体質を強化して、不測の事態に備えようとしたことも大きな動機となっていたことが窺われ、したがって、本件脱税の対象となった被告会社の利益(所得)もその大半が私に費消されることなく定期預金等の形で著積され、本件発覚後は被告会社の資産に戻されていること、被告人鈴木は本件発覚以降は素直に犯行を認め、その捜査にも協力的であり、当公判廷においても本件犯行を深く恥じて反省しているなど改悛の情が顕著であるうえ、既に修正確定申告をし、ほ脱税、延滞税、重加算税を納付ずみであり一定の社会的制裁を受けていること、被告人鈴木には前科、前歴はなく、今日まで長年にわたって被告会社の経営に身を投ずるとともに、食品添加物業界の発展に尽力してきたほか、これまでに保護司その他の公職を歴任するなど社会への貢献度も少なくなく、被告会社もこれまで処罰されたことがないこと等被告人らのために酌むべき事情も存するので、これら諸般の情状を総合考慮して、主文のとおり刑を量定した次第である。(求刑 被告会社罰金一、一〇〇万円、被告人鈴木懲役一〇月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 永井敏雄 裁判官 戸倉三郎)

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